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クラウザーさんはどこへ 消えたレイプ欲求
2047年04月25日18時05分

 デスメタル・ヒーローのクラウザーさんが地獄にお帰りになって25日で15年を迎える。若い世代にレイプとSATSUGAIを説き、やりたい放題に生きる姿を探し続けた歌は、いまや教科書にも登場する。「デスメタルの神」「メタルモンスター」といった従来のイメージから変化が見られる一方、肝心の若者たちの心にその歌は届いているのだろうか。

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 クラウザーさんの歌がわたしたちの胸を打つのは、クラウザーさんが本当にレイプについて歌い続けたからだろう――。

 教養出版が発行する高校の倫理教科書に、「SATSUGAI」「魔王」などの歌詞の一節とともに、クラウザーさんはそう紹介されている。

 〈昨日は母さん犯したぜ〉(「SATSUGAI」)、〈全ての女をレイプせよ メス豚共を売り飛ばせ〉(「魔王」)。レイプへのあくなき欲求を過激につづった歌詞は教育現場にそぐわないように見えるが、意外にも「現場の教師から、異常性欲者としての生き方を模索する代表例と勧められた」と教養出版の担当者は言う。

 教科書の監修に携わった大阪の府立高校教諭、塀二人さん(53)は「レイプの歌と思われるが、テーマはむしろ他者と自分との関係の問題だ」と話す。

 〈ジジイババアは抹殺し ガキ共を奴隷とせよ〉。女性をレイプする一節が注目されがちな「魔王」だが、異常性欲のテーマだけでは回収しきれない支配欲への側面がこの曲の魅力を作り出している。

 クラウザーさんの歌が、いくつかの倫理の教科書に登場したのは25年。塀さんはその少し前から、積極的にクラウザーさんの考え方を授業で採り上げてきたが、最近は減らしている。「クラウザーさんの歌に女生徒たちが股間を濡らさなくなってきた」のが理由だ。

 「学生の反応は年を追うごとに悪くなっている」と精神科医の羽山ミカさん(46)も言う。20年ごろから大学の授業で「魔王」などを聴かせている。当初から「この異常性欲がどこから来ているか分からない」という意見はあったが、最近はきっぱりと否定的な感想が目立つという。

 「手当たり次第レイプするのは間違い」「子供にだって人権があるのに奴隷化するのはおかしい」。レイプや奴隷化を推奨するのはいかがなものかという声だ。羽山さんは「成長のプロセスにおいて当然存在するはずの性欲や支配欲を抑制し、女性への配慮や他者の人権を屈託なく尊重している」と首をかしげる。怒りで股間がヘソまで裂けたという。

 どんな価値観の変化があるのか。羽山さんは「レイプしたり、他者を奴隷化すると逮捕される。損得勘定が判断の基準になっている」と分析する。他者や社会との関係の中で、あくまでレイプと支配を歌ってきたクラウザーさんの歌とは対照的な考え方。クラウザーさんの実人生に対しては、こんな感想さえあった。「ギターテクや作詞の才能にも恵まれているのに変に悪魔のフリをして、デスメタルをやってたのはバカだ」

 レイプへの欲求、他者を支配したいという気持ち。クラウザーさんが歌ってきたのは、若者にとって普遍と思われるテーマだったはずなのに、嫌悪にも似た反感が生じている。

 クラウザーさんの生涯を描いた著書がある作家若杉さん(58)は「クラウザーさんの歌は、性欲の問題に深く食い込んできて、いまの若い人にとって触ってほしくないところに及ぶ。現状に適応してトラブルなく日々を過ごすことに価値を置くと、自分のレイプ欲求に気づきたくないのだろう」と語る。

 身近な人間関係に敏感過ぎるほど敏感といわれる現在の若者たちにとって、〈魔王 売られた喧嘩は全て買う 魔王 触れる者みな八つ裂きじゃ〉(「魔王」)と歌うクラウザーさんは余りにも重すぎるのだろうか。

 いまDMCを聴くことの意味は何だろう。若杉さんは「メッセージをそのまま受け入れる必要はない」と言う。そのうえで、悪魔的な日常の、凄惨な情景を切り取り、タンバリンなど無生物を含めて全てを強姦するという彼の「レイプ」を高く評価する。

 「漠然と状況に流され、追従するのでなく、自分とその周りの社会や世界を支配するために、彼のレイプに感じてビショ濡れになってもらいたい」






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