萌えれない諸兄に贈る 『本気で薦めるシスプリ論』





シスタープリンセス(シスプリ)、というアニメをご存知でしょうか。
乱暴に説明しますと、主人公(♂)に突然12人の妹ができ、毎日何が起きるでもなく、カワイイ妹たちに囲まれ仲良く楽しく過ごすだけ、というものです。
これだけ読んでアナタは思ったことでしょう。狂っている、と。

そうです。僕も最初は「何と狂ったアニメだ」としか思っていませんでした。
おそらく多くの人たちもシスプリのことを一部の特殊な属性を持った好事家たちの慰みものだと考えていることでしょう。
しかし、この作品には「萌え」以外のもう一つ素晴らしい側面があるのです。それを理解していただければ、きっとより多くの人にシスプリを好きになってもらえるんじゃないか、シスプリを見ているというだけで僕が人から白い目で見られることがなくなるんじゃないか、という淡い期待を持って筆を取りました。
というわけで、今回は「実妹にハァハァなんて出来ないぜ」という方々のための、それでも楽しめるシスプリ論です。


*今回のシスプリ論はテレビアニメ版「シスタープリンセス」、通称「アニプリ」を対象とします。電撃G’sマガジンのオリジナル版やゲーム版「シスプリ」、ラジオ版「ラジプリ」は対象としません(理由は後述)。



1、ぬるアニメの世界


基本的に、僕はぬるいアニメが好きです
ぬるいアニメといいますと、すなわち「作品に悪意がなく」「これといって何も起こらず」「見ていて心が痛まない」ものです。今週も別段面白くはなかったけどなんだか幸せな気分になれたなあ、というアニメが好きなのです。

もちろん、「新世紀エヴァンゲリオン」「少女革命ウテナ」のような作品が素晴らしいことは認めます。僕もリアルタイムで見ながら感動しました。しかし、これらの作品はそのテーマの重さゆえ、ちょっとした時間に軽い気分で見る気にはなれません。画面に食い入るように見なければ理解できない類の作品です。
そういった作品の素晴らしさは認めつつも、一方では空気のように垂れ流すことの出来るぬるいアニメも必要だと思うのです。そして僕はおそらく一般の人よりこういうアニメが好きです。

大体、現実なんて世知辛いもんです。
誰も不幸にならない世界なんて、虚構の中にしかありえません。
だからそんなぬるい世界に思いを馳せる時間があっても良いと思うんです。
僕にとってその時間とは、こういうぬるいアニメをぼけーっと見てる時間なんですね。

その観点からいいますと、僕の知る限りで天衣無縫といっていい、素晴らしいぬるアニメが二つあります。
それは「万能文化猫娘」(TVアニメ版)「花さか天使テンテンくん」(TVアニメ版)です。

「万能文化猫娘」は第三話冒頭で晶子さんと桃子さんのちょっとイタイ場面があったのが悔やまれますが、他は完璧といっていいぬるさです。クラスメイトはみな無駄に個性的だし、彼らの間には行き過ぎた敵愾心や競争心などなく、終始和やかに穏やかに過ぎていきます。そもそもこの作品における敵の概念があってないようなもので、最初から最後まで子犬がじゃれあうような調子で微笑ましく展開します

TVアニメ版「花さか天使テンテンくん」は変に読者を感動させようとするコミックス版とは違い、ドライな感じでドタバタギャグを展開する、ぬるアニメとなっています。
たとえば、テンテンくんが全員の給食を盗み食いするシーンがありました。
このアニメでは、この行為が見てて痛々しい展開となることはありません。
まず、当然のようにクラス全員でテンテンくんを追いかけます。そして、その後、土手で磔刑火あぶり
「盗み食い」という行為に対し、クラスメートが泣き寝入りすることなく、まして詰問するでもなく、あえて何も言わずに「磔刑火あぶり」という過剰な選択肢を取ることにより、「盗み食い→磔刑火あぶり」の流れがギャグとして昇華され何の禍根も残さないのです。素晴らしい。
また、主人公ものび太のような救い難いダメ少年ではなく、確かな心の優しさとそれなりの克己心を持っています。なかなか好感の持てる人物で、基本的にはダメキャラにも関わらず見ててイタくありません
「テンテンくん」は「ドラえもんはイタすぎて見れんわぁ」という僕のような人間にも安心して見ることの出来る素晴らしい作品でした。

さて、少々長くなりましたので話を元に戻しましょう。
ここまでくれば言うまでもないと思いますが、そうです。まさにシスプリもぬるアニメなのです!



2、シスプリはこんなにぬるい!


シスプリは上記二作品と比べると、若干ぬる度が落ちます。
主人公が当初12人の妹との生活を嫌がっていたことと、第10話「がんばって、あにぃ!」で途中ヘタれてしまったことが主な原因ですが、それらを差し引いても一線級のぬるアニメといえましょう

シスプリのぬるさは、その設定にあります。
妹が12人いて、全員かわいい(個人的嗜好はあると思いますが、少なくとも不細工ではありません)。
そのうえ、全員仲が良い。何より、みんなお兄ちゃん(主人公)が大好き
ハッキリいって、現実生活では考えられないことです。

12人も人間がいれば、一人くらい格の悪い子や、顔の悪い子や、怠惰な子がいてもおかしくありません。姉妹間でのケンカもあるでしょうし、みんなお兄ちゃんが好きならば、独占欲やら嫉妬やらあってもおかしくはありません。
しかし、シスプリにはそれがないのです。
アニメを見た感じ、主人公と偽妹の深実を加えた14人は、とにかく仲良く礼儀正しく振舞っています。
とはいっても、姉妹ということでじゃれ合う事もあり、決してよそよそしい礼儀正しさではありません。親しき仲にも礼儀ある感じです。

たとえば家事。
彼らはこの14人で共同生活をしているわけですが、炊事洗濯といった煩雑な事柄を誰も嫌がることなく、仲良くこなしています。
炊事に関しては、おそらく料理自体は白雪(料理好きキャラ)が一括して引き受けているようですが、後片付けなどは何人かで協力しているようです。
洗濯や掃除は何人かで分割・協力して行っています。もちろん主人公も一緒にやっています。一人や二人はサボったりする子がいてもおかしくなさそうなものですが、彼女たちはどんなときも仲良く楽しそうにこなしています。
亜里亜や雛子など幼少の子たちや鞠絵のように病弱な子はたまに掃除などをしていないときもありますが、誰もそれについて責めたてたり苦言を呈したりということはありません。(正確にいえば、鞠絵に対して深実が一度だけありましたが、それも実に軽いものです)

また、重要なことに彼らの家は基本的にお金持ちです。
爺やがいるくらいですから間違いないでしょう。
彼らは結構贅沢に食事をしたり遊んでいてシーツを全部買い換えるハメになったり主人公から「研究資金」と称して金をせびったりしていますが、何せ家が金持ちなので、経済的な面では見ていて心配になりません。安心して見れる、という点からすると、彼らがお金持ちなのは重要なファクターです。

主人公のキャラクターも、どちらかといえばのび太系駄目キャラですが、それは主にガリ勉っぽい貧弱な印象がそうさせるだけであり、実際ガリ勉ということで勉強だけは出来るみたいですし、最初実にヘタレていたキャラクターも中盤以降頼れるお兄ちゃんとなり見ている方も一安心です。
最初ヘタレていたといっても、肝心なところでは芯の強いところを見せてくれますので、ギリギリOKなラインではあります。

あと、このアニメには山田という、あんまり意味の無いキャラが出てきて、これがまた非常にウザく、憐れですらあるのですが、そうはいっても白雪からお弁当を食べさせてもらったり、結婚式ごっこでは神父の役になったりと、それなりに居場所は与えられているので良しとしましょう、ウン。

結局、シスプリのぬるさをまとめると、以下のようになります。

  • これといって何も起こらない
  • 妹たちはみんなかわいい
  • 妹たちはみんな仲が良い
  • 妹たちはみんな性格が良い
  • 登場人物はみんな穏やか
  • 主人公+妹たちは基本的に金持ち(経済的心配がない)
  • お兄ちゃんに対する、過度の独占欲などがない(恋愛感情がない)
  • 主人公がそれほどダメでもない(あれでなかなか思慮深く、寛容な心の持ち主。少なくとも頭は良い)
  • 誰かが誰かを怒ったり嫌ったりすることがない(悪意がない)
  • 人が(ほとんど)傷つかない
つまり、かわいい妹たちと何の心配も無く仲良く楽しく毎日を過ごす、それだけの話なのです。
ぬるい、実にぬるい!素晴らしい!



3、他の萌えアニメとの比較


というわけでして、僕は萌え以前に、このぬるさが好きでシスプリを見ていたわけです。
まあ、そうしてずっと見ていると、そりゃあ妹たちが好きにもなってきます。
「鞠絵たん、カワイイなぁ」とか「亜里亜たん、萌え萌え〜」とか思ってしまっても、それは詮無きこと。
しかし、たとえ彼女たちに萌えなくても、僕はこのアニメを見ていたことでしょう。
全く萌え要素のない「テンテンくん」を見ていたのと同じことです。

そう、僕は「萌えアニメ」としてシスプリを見ていたのではなく、「ぬるアニメ」としてシスプリを見ていたのです。
それを実証するためにも、ここで、もう一つの萌えアニメ「天使のしっぽ」と比較してみたいと思います。


「天使のしっぽ」は有名な電波系萌えアニメ。シスプリの二番煎じながら「間違ったシスプリ」などといわれている、結構どうしようもない作品です。
シスプリの場合は主人公の周りにいる女の子は実の妹たち
その一方、「天使のしっぽ」では自称元ペットの生まれ変わりの狂人守護天使。
イキナリ主人公の元へ、「私たち昔アナタに飼われていたペットなんですぅ!」と押しかけてくる訳です。狂ってますよね?

そして「天使のしっぽ」の主人公は、やはりダメ人間。
心だけは優しいようですが、ただ優しいだけの人間です。
さらに彼は無職。ラストで実家が温泉宿を経営していることが分かり「あぁ、資産だけはあるんだな」と安心できますが、それまではバイトも見つからず、明日食う金はあるのだろうか、と見ていて不安に駆られます。

そんな状況下で、元ペットを自称する狂人守護天使12人が押しかけて、食費は13倍になるわ寝るヒマも与えられないわこいつら勝手にケンカするわ、もう目も当てられません。
特に問題となるのはやはり食費。彼らの食卓を見たところ、全く外食をしなかったとしても一人当たり月2万は食費に掛かっているでしょう。13人なら月26万です。主人公、まっとうな職どころかバイトすら見つからない状況。どうやって26万もの大金を捻出しているのでしょう。借金をしているとしか思えません
主人公、職もなく金もなく女にもモテず、思いつめた挙句、血迷って自称元ペットの狂人守護天使12人を招き入れてしまったのでしょう。
きっと、彼は

「ああ、僕って本当に何をやってもダメ人間。
将来の展望も見えないし、女の子とイチャついたこともないし、職も見つからないし、何か特技があるわけでもないし、本当に何のために生きているんだろう
そろそろ貯金もなくなってきたし、毎日の倹約生活もウンザリだ・・・
ん・・・、何か女の子がいっぱい押しかけてきたぞ。
みんな『元ペットの生まれ変わり』とかいってる。なんなんだコイツラ。

・・・・・・まあいっか。

どうせこの人生にも疲れていたところだし
最後にこのコたちと楽しく遊べるなら、もう何でもイイヤ
食費とかもずいぶん掛かるなぁ。

・・・ハハ、まあいいや。

借金すれば当分食いつなげるだろう。
これからこのコたちと遊べるのかぁ、フフフ。楽しみだな〜。
後のことは、もういいや・・・。
それにダメだったら死んでしまえばいいのさ死ねば全部リセットだもの

いいんだ、僕はいまからこのコたちと遊べることが楽しみでしょうがないんだ・・・。
いいんだ・・・。後のことはどうだっていいんだ・・・。
フフ・・・、フフフ・・・・・・」

・・・こういった自己破滅的な思考に陥り、己を見失ってしまったのでしょう
あまりに憐れで僕は涙無しには見られませんでした。
まるで太宰治の「斜陽」のようです。
シスプリの主人公が、何の経済的・将来的不安もなく、仲の良い妹たちと毎日楽しく過ごしてるのと比べると、彼の境遇は実に不幸です。

このように「天使のしっぽ」は全くぬるくないのです。
「小公女セーラ」くらい悲しいお話です。
同じ萌えアニメでも「シスプリ」と「天使のしっぽ」ではここまで違うのです。
たとえ鞠絵や亜里亜が「天使のしっぽ」に出たとしても、僕はこのアニメを好きにはなれなかったでしょう。
そう考えると、いかにシスプリがぬるアニメとして必要な要素を備えていたか分かってもらえるでしょうか。



4、血縁


シスプリにおける最大のキーワードがこれではないでしょうか。
そう、つまり主人公と女の子たちの関係は実の兄妹彼らは血の繋がった家族なのです
彼女たちが血の繋がった妹である、ということ。それが何より重要なのだと僕は考えます。

といっても誤解しないで下さい。僕は決して

「実妹とヤる方がハァハァできるじゃねえかよ〜〜」

という意味でいってるわけではありません。
頼むから誤解しないで下さい。そういう特殊な属性は持ち合わせておりません。
理性的に話を聞いてください。


彼女たちはです。
これが何を意味するかといえば、彼女たちは主人公に対して、恋愛感情を持つことが出来ない、ということです。
恋愛というのは非情なものです。
一人が一人と結ばれたときには、喜ぶ二人の何倍もの人間が泣くことになるのです。
一対一の恋愛においては、全ての人間がベストな形を得ることは本質的に不可能です。
かといって、一人が多数の人間を相手にする場合、それは不倫や性的奔放さといったマイナスイメージに直結します。
そういった恋愛の悲喜二面性を考えるなら、ぬるアニメにおいては恋愛感情など無い方が良いのです。

しかし、恋愛感情がないといっても、人と人との暖かい心の繋がりはある方が良いに決まっています。
シスプリではこの問題に対し最善の解決法が取られているのです。
そう、彼女たちは実の妹なんです。

彼女たちは妹です。だから、どんなにお兄ちゃんを慕おうと、それは恋愛感情ではありません。
どちらかがちょっと変な気を起こせばどろどろな話になってしまいますが、アニメに関してはそういう描写はほとんどありませんでした。(特に主人公が全くそういう素振りを見せなかったことは高く評価できます)
妹全員がお兄ちゃんを慕いながらも姉妹間に亀裂が入らず、嫉妬などが見られないのも、対象が兄であるからなのです
しかし、妹たちはみな、「お兄ちゃん、大好き〜」と憚りなく公言し、何かとお兄ちゃんにじゃれついてきます。彼女たちがお兄ちゃん大好きなのは明らかです。良い話です。12人の人間が1人の人間を、ここまで憚りなく愛せるなんてことないですよ。
主人公の対応も決して妹たちを異性として扱わず、あくまで妹として、されど優しく暖かく対応しています。特に幼少の雛子や亜里亜への対応が実に優しい。見ていて心が和みます。

結局、妹たちのお兄ちゃんに対する思慕の情、それに対する主人公の妹たちへの優しい対応、決して恋愛関係には発展しない、この関係を何と呼べば良いのでしょうか。

そう、これこそ家族愛だと僕は思うのです。



5、まとめ〜家族で楽しむシスタープリンセス〜


現実における兄と妹がこんな良い関係であるわけがありません。
僕にも妹がいますが、こんなにまで仲良くないです。
そんな現実問題はさておき、こんな家族像に憧れても良いと思うんですよね。
決して性的・恋愛関係に陥ることなく、あくまで家族という範囲でここまで互いを好きになれる、そんな兄妹の関係がシスタープリンセスでは表現されているのだと思うのです。

確かに、残念なことにシスプリそのものは元々、特殊な属性を持った方々の慰みものなのでしょう。
ぶっちゃけ、「妹、ハァハァ」という方もいらっしゃる事と思います。
そういう見方も否定はしません。

*たとえば、シスプリゲーム版は「12人いる?」さんのゲーム評を読んだ限りでは、やはり妹への恋愛感情がメインとなっているようです。ゲーム版ではグッドEDが「妹とは実は血が繋がっていなかった!めでたしめでたし」というものらしいです。つまりゲームでは「妹と恋愛関係になれる」ということを望ましい展開と考えているわけで、僕のシスプリ見解とは大きく異なります。それゆえ今回はアニプリ限定とさせて頂きました。(正直、この価値観の押し付けは好ましくありません。シスプリ好きなのにゲームをする気が起きません)

そういった「妹、ハァハァ」という見方もあるのでしょうが、僕のように家族愛としてのシスプリの捉え方も確かにあるハズだと言いたいわけです。
少なくともアニメ版シスプリに関しては、問題なくそう受け取ることが出来ると思うのです。



アニメ版シスプリに関しては「見たけど何が面白いのかわからん」という話も良く聞きます。
それももっともだと思います。
だって、アニプリでは基本的に何も起きませんから
しかし、兄妹が仲睦まじくゴハンを食べたり、お掃除をしたり、旅行に行ったりする様子を見るのは実にハートウォーミングです。
ひたすら仲の良い兄妹の仲の良い日常を流しつづけるだけのアニメがあっても良いじゃないかと思うんです。
強く心を動かされたり、感動したり、そんなことはないですけど、見た後、心が優しくなれます。ある意味癒し系アニメです。α波出す系の音楽それ自体では何が楽しいのか分からないように、シスプリもそんなものだと僕は考えるのです。
シスプリは元来の意図がアレですから仕方ないんでしょうけど、本当は深夜なんかに流さず、ゴールデンタイムに家族揃って見てもいいと思うんです。
シスプリで家族愛を学べ、とかそこまでは言いません。が、シスプリは家族揃って心が温かくなれるアニメだと思うのです。


というわけで、シスプリを萌えアニメとしてしか認識せず今まで振り向きもしなかった方に、ぬるアニメ、癒し系アニメとしてのシスプリの見方もある、と分かっていただければ僕としては十分です。
重要なのは、萌えじゃなくって家族愛なんです。シスプリってやつは。


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