●『君主論』研究_第七章





『他者の軍備と運命で獲得した新しい君主政体について』
〔第七章では、第六章が「自力でゲットしたなら維持も簡単だよ」といってるのに対し、逆に全くの他力本願での領地獲得の場合について触れている〕

まったく運命のおかげだけで私人から君主となったもの(世襲君主は除く)は、労せず君主となったものの、その維持は困難である。

これについて、マキャベリはその理由を以下のようにまとめる
・自分が君主となったのは、自分に支配権を譲ってくれた人物の意志と運命によるものであるが、それは移り気で不安定なものであるため
・これまで一般人だった人間が突然に君主として命令を下すなど、よっぽどの力量がなければ不可能だから
・自分の味方となりうる忠実な武力(軍備)を持っていないから

それからマキャベリは、彼が理想の君主像のひとりとして挙げているチェーザレ・ボルジアを例に出し、彼の取った行動を具体的に詳述する。
ボルジアは教皇である父親の運命により政体を獲得し、君主となってからも政権維持のために十分な手立てを講じたが、にも関わらず父親の運命(急死)により政体を失った。
以下はボルジアの講じた手立て。

・軍備を持つオルシーニ家とコロンナ家を弱体化させるため、両家に与するローマ貴族を自分の側へ引き込み、過分な報酬で手なづけた
・コロンナ家、オルシーニ家の主だったものを離散、もしくは抹殺した
・レミッロ・デ・オルコを派遣し、獲得領地を厳しく治めさせ、領地の治安を回復させた
・厳しく治めたことによる市民の怒りの矛先をオルコに向けさせるべく、オルコを処刑した
・奪った領土の支配者たちの係累を殺した
・自分に不利な次期教皇の選出を防ぐため、枢機卿会議での多数派工作をした
・十分な領土の獲得を目指した

罠にかけてオルシーニ家を暗殺したことや、獲得した領地の支配者の係累を抹殺する辺りは、まあまだ分かるけど、自分の部下を遣って領地を厳しく統治させ、領民の怒りが集まってきたところでその部下を殺して怒りの矛先を自分から逸らすという、かなりとんでもないやり方まで「理想的な行動」とする辺りが、いわゆるマキャベリズムなイメージだと思われる。

唯一の問題は次期教皇に自分に敵対する人物を選んでしまったこと

「およそ名のある人物にあって新たな恩恵がかつて加えられた古傷を忘れさせられると信じる者は欺かれる」
一度敵としてダメージを与えた相手は、それから何をしてやっても、やはり油断のならない相手であり、ここ一番で信じるべき人間ではない、ということか。

マキャベリはここでボルジアの来歴を引いた後、彼の取った行動、すなわち理想的な君主としての行動を列記している。
これは君主論を通しての、マキャベリの「理想的な君主の行動指針」と思われるため、以下に挙げておく。

・敵を退け味方を増やす
・(敵を)武力や謀略により打ち負かす
・民衆から愛され、かつ恐れられる
・兵士たちに慕われ、かつ畏怖される
・自分に危害を加える可能性のあるものを抹殺する
・新しい制度によって古い制度を改める
・峻厳であると同時に慈悲深く振舞う
・寛大であり、かつ惜しみなく与える
・忠実でない軍は解体させて新たに組織し直す
・王侯や君主たちとは友好関係を保ちつつ、自分に利益をもたらすようにするか、あるいは彼らを攻撃する時は慎重に行う

とても美徳とはいえない項目が含まれている辺りが、マキャベリの現実主義といえる。


第七章のまとめ
第六章では「自力で獲得したんなら維持もできるよ」といってるが、第七章では「他力(運命)で獲得した場合は、すごい頑張っても維持は難しいよ」といってるように思われる。
ただ、ボルジアはやれるだけのことはやっているので、「そこは結局、天運(運命)だよ」というマキャベリの政治思想なのかもしれない。どうも、人事の後に来る「天命」を、マキャベリは一定以上のファクターとして考えている感があり、おそらく私たちが現代人であるがゆえに理解し辛い。


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