●『君主論』研究_第一〇章





『どのようにしてあらゆる君主政体の戦力を推し量るべきか』
〔第一〇章では主に「市民による君主制」にて、篭城して敵の攻撃から政体を守る方法について論じられている〕

君主の強さ――必要の際に独力で対抗できるほど強い⇒A
          常に他者の防衛力に頼ろうとしている⇒B

独力で対抗できる者とは、豊富な人員や資金によって正当な軍隊をまとめあげ、侵略してくる相手があれば誰とでも戦闘を交える者。
常に他者に頼ろうとする者とは、戦場へ打って出て敵と対決できずに、城壁の内側へ逃げ込んでこれを防御せざるを得ない者たち。

A:第六章の他、その他にて言及
B:ひたすら都市の防衛を強化し、物資を蓄え、また領域に関しては一切考慮しないように

ここでいう「領域」とは、城壁の外に広がる領地のことらしい。有事において、見捨てるべき箇所ということか。

常に他者の防衛力に頼ろうとするBの場合の君主が生き残る方策を第一〇章では論じている。『どのようにしてあらゆる君主政体の戦力を推し量るべきか』という第一〇章の表題と内容が一致しない気がする。良く分からない。また、第一章で示されたガイドラインから外れる例外的な章であり、次の軍備についての章、すなわち「第十二章から第十四章」への橋渡しとなる章だという。

ドイツの例に見る堅牢な防備
・城壁
・堀
・水路
・大砲
・一年分の飲料、食料、燃料
・公共事業(※1)
・軍事訓練

このようなものが揃っていれば、「他者の防衛力に頼ろうとする者」であっても、政権を維持できるという。また「領域」への被害や、長引く篭城生活の鬱憤から君主への不信・反逆が出そうな時は、君主は適宜それに対し、説得をしたり、厳罰を施したり、巧く立ちまわらなければならない。

「領域」での被害は敵が攻め寄せてすぐに行うことである。「七人の侍」で野武士が守備範囲外の家に火をつけたことを思い出すと良いかもしれない。しかし、篭城してすぐの頃は人々は士気が高いため、そのことで君主を恨むことは少ない。また、(マキャベリの語る人間心理によれば)人々は君主を守るために自分たちの家屋を犠牲にしたことで、君主が自分たちに恩義を感じていると考えるという。そして、マキャベリによれば、「人間とは施された恩恵と同様に、施した恩恵によっても、義務を感じあう」ものなので、逆に家屋を破壊されたことにより、人々の士気は保たれるという。マキャベリの言うこの人間真理に関しては、文化人類学のギフト行為が参考になるかもしれない。

※1
下層階級の人でも食っていけるように、という計らいか?


第一〇章のまとめ

有事(平和ではない時)の際に、打って出るのではなく、守ることによって政体を保つ方法が書かれている。マキャベリによれば、そのために必要なのは

・城壁
・堀
・水路
・大砲
・一年分の飲料、食料、燃料
・公共事業
・軍事訓練

などであり、それに加えて「領域」、つまり城壁の外側の領地を、完全に防御対象外として見捨てることが必要だという。領域に関しては、それがどのように打ち払われようと(領民たちにはいい迷惑だが)それによって士気が下がったり、政体が保てなくなることはない。
なお、結局のところ第一〇章も「いかに市民を統御するか」という点を論じていると思われる。その意味では、第九章の続きと言っても良いのではないか? 第九章が「市民による君主制」を「獲得する際」の市民への接し方だとすれば、第一〇章は「市民による君主制」において「有事の時」の市民への接し方といえるかと思われる。「君主論」を献じる相手のメディチ家が、まさに「市民による君主制」であったがために、「市民による君主制」を詳述しているのであろう。

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